2024.01.24
蓄電池設備の消防法令改正を解説します!
【はじめに】
蓄電池設備の出火防止措置及び延焼防止措置に関する基準(令和5年消防庁告示第7号)が令和6年1月1日より施行となりました。
基準単位の見直し、蓄電池容量による適用区分(消防への届出等)等が改正され、お客様にとっても重要な情報になりますので解説します。
(法令改正の内容なので、非常に堅い内容ですが役に立つと思います。)
【背景】
これまでの蓄電池設備の基準は主に開放形の鉛蓄電池設備を想定した内容となっていたため、リチウムイオン蓄電池設備など新たな種別の蓄電池設備や今般の大容量化などに十分対応できていない。
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『蓄電池設備のリスクに応じた防火安全対策検討部会』を設置し、検討した結果を踏まえ対象火気省令及び条例(例)を改正し、蓄電池設備に係る規定の見直しを実施。
【見直しの概要】
(1)蓄電池設備の規制対象(条例(例)第13条第1項関係)
ア 蓄電池設備の潜在的な火災リスクは保有する電気エネルギーの大きさである蓄電池容量(kWh)に依存すると一般的に考えられることから、規制対象の指定に係る単位を(Ah・セル)から(kWh)に改めた。
イ 蓄電池容量が10kWh超20kWh以下の物のうち、『出火防止措置が講じられた蓄電池設備』は規制の対象外とした。
『出火防止措置が講じられた蓄電池設備』とは以下の3つの安全要求事項を満たすもの。
① 過充電防止措置
② 外部短絡防止措置
③ 内部短絡防止措置または内部延焼防止措置
具体的には以下の標準規格に適合する蓄電池設備
標 準 規 格 | 同等以上の出火防止措置が講じられたもの |
産業用リチウム二次電池の単電池及び蓄電システム 第2部:安全性要求事項 JIS C 8715-2 | アルカリ又は他の非酸電解質を含む二次電池及びバッテリ工業用途で使用する二次リチウム電池及びバッテリの安全要求事項 IEC62619 |
産業用密閉型ニッケル・水素蓄電池の単電池及び電池システム 第2部:安全性要求事項 JIS C 63115-2 | アルカリ又は他の非酸電解質を含む二次電池及びバッテリ産業用途で使用するための密閉ニッケル水素電池及び電池 第2部:安全性 IEC63115-2 |
(2)転倒防止措置(条例(例)第13条第1項関係)
これまで強酸性の電解液を用いた開放形鉛蓄電池を想定し、転倒時の安全措置として耐酸性の床上等の設置を求めていたが、今般、酸性またはアルカリ性ではない蓄電池や転倒に伴い電解液流出の恐れがない密閉型の蓄電池も普及していることを踏まえ、開放形鉛蓄電池を用いたもの以外については耐酸性の床上等に設置しなくてもよいこととした。
改正前の規定は転倒防止のみを要求するものであったが、振動・衝突に対する措置として対象火気省令第12条第1項の規定と合わせ、破損や亀裂の防止も要求することとした。
(3)屋外に設置する蓄電池設備からの隔離距離(条例(例)第13条第3項関係)
屋外に設置する蓄電池設備については原則として建築物から3m以上離隔距離を設ける必要があるが、一定の条件を満たせば離隔距離は不要とされており、当該要件として新たに『延焼防止措置が講じられた蓄電池設備』を追加した
標 準 規 格 | 同等以上の延焼防止措置が講じられたもの | 備 考 |
無停電電源装置(UPS) 第1部:安全要求事項 JIS C 4411-1 低圧蓄電システムの安全要求事項 JIS C 4412 | 低圧蓄電システムの安全要求事項 第1部:一般要求事項 JIS C 4412-1 低圧蓄電システムの安全要求事項 第2部:分離型パワーコンディショナの特定要求事項 | JIS C 4412-2は JIS C 4412-1で 求められる安全要求事項について適合しているものに 限る |
電気エネルギー貯蔵システム 電力システムに接続される電気エネルギー 貯蔵システムの安全要求事項 電気化学的システム JIS C 4441 | 無停電電源装置(UPS) 第1部:安全要求事項 IEC 62040-1 蓄電(ESS)システム 第5-2部:グリッド統合ESSシステムの安全要求事項 電気化学ベースのシステム IEC 62933-5-2 |
(4)換気、点検及び整備に支障のない距離(条例(例)第11条第1項関係)
改正前の規定は『キュービクル式』の蓄電池設備に限って、当該設備の周囲に換気、点検及び整備に支障のない距離の確保を求めていたが、本規定は基本的な安全対策を目的とした規定であり、『キュービクル式』に限るものではないため、共通的に求められる措置として適正化を図った。
(5)消防長(消防署長)への届出(条例(例)第44条関係)
火を使用する設備又はその使用に際し、火災の発生のおそれがある設備のうち、特に火災危険性の高いものの設置状況をあらかじめ消防本部において把握することを目的とした規定であることから、相対的に火災危険性が低いと考えられる蓄電池容量20kWh以下の蓄電池設備は届出を要しないこととした。
消防への届出規定
改正前:4,800Ah・セル以上 ⇒ 必要
改正後:20kWh超 ⇒ 必要
消防法令上の蓄電池容量(kWh)は以下の電圧で容量を算出します。
鉛蓄電池:2V/セル
アルカリ蓄電池:1.2V/セル
リチウムイオン電池:3.7V/セル
※リチウムイオン電池は製造元、種別にかかわらず3.7Vセルとして取り扱います。
【改正前の課題】蓄電池種別の多様化と大容量化への対応
蓄電池の種別により電圧が異なることから、同じ4,800Ah・セルの蓄電池であっても蓄電池容量(kWh)に差が生じている。
改正前規定(4,800Ah・セル)を基準とした主な蓄電池設備の蓄電池容量(kWh)
電池種別 | Ah・セル | 電圧(V) | 蓄電池容量(kWh) |
鉛蓄電池 | 4,800 | 2 | 9.6 |
ニッケル水素蓄電池 | 4,800 | 1.2 | 5.76 |
リチウムイオン蓄電池 | 4,800 | 3.7 | 17.76 |
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改正前のリチウムイオン蓄電池における届出基準値(17.76kWh)とJISの蓄電池容量の区分を参考に届出基準値を20kWh超に見直し
【例1】受変電設備用蓄電池設備(鉛蓄電池54セル仕様)
改正前:150Ah × 54セル = 8,100Ah・セル ⇒ 【届出必要】
改正後:2V × 150Ah × 54セル = 16.2kWh ⇒ 【届出不要】
2V × 200Ah × 54セル = 21.6kWh ⇒ 【届出必要】
【例2】通信用蓄電池設備(鉛蓄電池25セル仕様)
改正前:400Ah × 25セル = 10,000Ah・セル ⇒ 【届出必要】
改正後:2V × 400Ah × 25セル = 20kWh ⇒ 【届出不要】
(6)経過措置(改正条例(例)附則第2項から第4項まで関係)
本改正は一部の蓄電池設備等において規制強化となる場合があることから必要な経過措置を設けている。
ア 改正条例(例)附則第2項
キュービクル式以外の蓄電池設備等に対しても換気、点検及び整備に支障のない距離を保つ必要が生じることとなるため、設置済又は設置の工事中の蓄電池設備等に対しては従前の規定を適用する。
イ 改正条例(例)附則第3項
新たに明確化した亀裂、破損の防止措置について、設置済又は設置の工事中の蓄電池設備に対しては従前の規定を適用する。
ウ 改正条例(例)附則第4項
リチウムイオン蓄電池を用いた蓄電池設備については電圧が高く4,800Ah・セル以下であっても、10kWhを超えるものから17.76kWh未満のものが従前は規制対象外であったが、改正後は7号告示第2に定める出火防止措置が講じられた蓄電池設備に該当しないものは規制対象となることから、新たに規制対象となる蓄電池設備で既存のもの及び改正後2年の間に設置されたものについては当該規定を適用しない。
【おわりに】
蓄電池設備は機器仕様や設置場所条件(保有距離、換気等)を消防法や火災予防条例に確実に適合させ、場合によっては所轄消防へ事前相談することで、消防検査が円滑に進展します。
当社は業界トップクラスの専門性を生かし、お客様へ安全・安心な蓄電池設備を提案いたします。
蓄電池設備のお問い合わせは東亜電機工業株式会社 TECS事業部まで、お気軽にご連絡ください。
【引用文献】
1.消防庁予防課 消防の動き24年1月号 レポート2
「改正火災予防条例(例)」の運用等についての解説
【参考文献】
1.蓄電池設備のリスクに応じた防火安全対策検討部会
報告書 令和5年3月(消防庁 公表資料)
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この記事はTECS事業部が執筆しました。